TVや雑誌などで馴染み?のある環境ホルモンと言う名称は、実は日本の造語で、正式には
*「内分泌攪乱化学物質(ED)」と言います。
これはホルモンではなく、我々を取り巻く環境に存在する人工的な化学物質で、体内に入るとホルモン本来の働きをかく乱させる疑似ホルモンとして働くやっかいな代物です。

特に胎児の場合、母親の胎盤を通じてダイレクトに胎児の脳へ侵入するので、脳の発育に影響を与え、ひいては脳そのものの構造や障害、その子の知性や知能、性格や行動等にも係わってくることになります。
この環境ホルモンの注意する点は、胎児期〜乳児期という極めて短い期間に限られるという点です。人は、特に誕生前6ヶ月間に人としての器官や形態が急速に発達してきますが、この1回限りの発達過程に何かしらの悪影響を受けると、あとで取り返しのつかないことになってしまいます。その大きな原因の1つが環境ホルモンなのです。
この「1回限り」と言うのは、知性の
「臨界期*(既出)」でも出てきましたが、同じようだと思いませんか?
その通りで、これは
*「有害物質(環境ホルモン)に対する臨界期」と呼ばれています。
知性の臨界期の場合は、その時期に適切な刺激や教育環境を与えないとその後にいくら与えてもあまり効果が出てこないのですが、この有害物質に対する臨界期の場合は、逆にその時期に与えてしまうと、取り返しがつかないことになってしまいます。その後に与えられてもそれほど影響がないと言う点では両者同じですが、知性の場合は比較的長い期間(各知性により異なるが8歳位まで)であるのに対して、有害物質の方は極めて短い期間(誕生前6ヶ月位とその後1年位が特に重要)となります。
さて、この環境ホルモンの代名詞とでも言うのが
*「ダイオキシン」です。
(このダイオキシンですが、1回の出産と授乳によって、母親に蓄積された量の半分を子どもの移転させると言われています。ですから、第1子が生まれると、母親は自分のダイオキシン量が1/2に減りますが、その子は1/2もらうことになります。さらに第2子が生まれると、母親はすでに1/2に減っており、その半分が再度第2子に移転するので1/4となります。つまり第2子は、1/2×1/2=1/4の量のダイオキシンを受け継ぐことになるわけです。)
ダイオキシンの被害でよく知られるのは、ベトナム戦争でアメリカ軍が使用した枯れ葉剤(農薬の劇薬)の影響を受けた地域から生まれたシャム双生児のベトちゃん&ドクちゃんのような形態異常がショッキングで有名ですが、スウェーデンのバルト海沿岸やアメリカの5大湖沿岸の工業地帯でも、汚染された魚を食べ続けていた地域の子どもは、脳が小さく、知能も低く、精神的にも問題がある子が多い、という食害も報告されています。
ダイオキシンは我々の身の回りに存在し、通常の量では大人にあまり影響はありませんが、ベトナムのように形態異常の子が多発するほどの量となると話は違ってきます。
多くのベトナム人が体調不良や精神障害、生殖不全や流産と言った様々な障害を受けましたが、そこに一時従事したアメリカ兵でさえも同じように影響を受け、社会的問題を引き起こしました。
さて、ここまで悪名高い枯れ葉剤「エージェントオレンジ」。尋常ではない量のダイオキシン量だと思われるでしょうが、ベトナム戦争中(1965年米国の介入〜1975年)にアメリカ軍が枯葉作戦で使用したこの薬剤に含まれるダイオキシンの総量は、たったの約200kgにも満たないそうです。
そうは言われても、多くの食品の中に微量ながらもダイオキシンが含まれてしまっている現代社会に生きる私たちは、ダイオキシンを取らずに生きていくことは無理でしょう。子どもを生む頃には、すでにある程度のダイオキシンが蓄積されてしまっています。結婚や妊娠してから慌ててダイオキシンに神経質になっても、すでに手遅れです。日頃から気をつけて、無農薬野菜や海草といった食物繊維(ダイオキシンの排泄を促す)を意識的に沢山取るようにして、上手に生きていくことが大切です。
さて、これに関連してのお話です。このたび厚生労働省は胎児の脳に影響を与えかねない食物として、メチル水銀を多く含む魚の摂取について、ガイドラインを発表しました。
*『どう伝える食の安全』(クローズアップ現代/NHK番組)でも取り上げられ、メチル水銀を多く含む魚の摂取により胎児の脳に影響を与えかねないとして、妊娠中の女性の食生活に注意を喚起しています。これも反響が大きくなるでしょう。
ことの発端は、デンマークのある島民は日本人の2倍のメチル水銀が体内に蓄積されており、胎児の時にこの水銀含有量が高かった子供は、集中力や記憶力といった能力が劣る、と言う調査結果によるものです。その島民のよく食べる食べ物にゴンドウくじらのベーコン(塩漬け)があります。日本人はあまり食べる機会はありませんが、実は、日本人の好きなキンメダイやマグロにもこのメチル水銀が他の魚より多く含まれています。
ただ、魚介類は肉類と異なりヘルシーでDHAなどの貴重な栄養素を多く含むので、これらの魚を食べてはダメと言うのではなく、その取り方に注意すれば問題はないと言うことです。
ちなみに、そのガイドラインによれば、妊娠中の女性が1週間に取っても問題がない量とは、その人の体重1kgあたりメチル水銀2.0μg(100万分の2g)で、約1人前の量の切り身80gとかマグロの刺身6切れ程度です。
もう1つ、ホルモンのお話です。
前回は
「アンドロゲン*(既出)」と言うホルモンが、胎児の脳形成に影響を与えることを述べました。なぜ、人の胎児の脳は、最初はみな女性の脳なのでしょう? 生命の不思議ですね。ともあれ、このアンドロゲン・シャワーを脳に浴びないと、男の胎児は女性化した未熟な男性脳になってしまうわけで、お母さんにはストレスの無い、愛情に囲まれた環境で大切な我が子の出産を迎えてもらいたいものです。
今回はその逆で、ある事情で外部からそれが投与されると、男性ホルモンと同じように作用してしまい、胎児の脳が男性化されてしまうケースを紹介します。
つまり、男性化した「女脳」「男脳」の誕生です。
これの意味することは何でしょう?

男の胎児の場合、「超男性化した男脳」となるわけです。
もともと男脳には、狩猟本能や好戦的要素があるのですが、これが「超」強化されるわけだから、思春期を迎えた頃ともなると人並み以上の強い攻撃性や暴力性、強い征服欲や性欲、等々を持つ男の子になってしまうわけです。
さて、このある事情と言うのは、流産予防のための投薬等があげられます。ある種の流産予防薬として合成
*「黄体ホルモン」製剤が大量に投与されたケースでは、それがトリガー(引き金)となってしまい、幼児脳へ影響を与えてしまったのです。
この黄体ホルモンは女性ホルモンの1種ですが、外部からの投薬などで製剤として与えられると、胎児の脳に男性ホルモンのアンドロゲンと同じように作用することが知られています。つまり、脳を男性化させるわけです。もちろん一部の話ではあり、全ての人に当てはまるわけではありませんが、結果として幼児脳へ悪影響を与えてしまったのならば悲劇です。流産予防治療を受けてまで、一生懸命に生もうとしている人が、あえて可愛い我が子に悪影響を与えることなどするわけもないからで、思いもよらないでしょう。
また、ある種の睡眠薬にも、胎児に対して同じように男性ホルモン作用を持つものもあります。
これらもある意味、外部から人工的に薬として使用した・使用せざるを得ない環境にあったと言う意味では、広義での環境ホルモンと言えるでしょう。
昨今の青少年や低学年での重大な、衝動的な、残虐な犯罪がよく起こりますが、これらは、もはや生活環境や学校教育、躾や家庭事情、等々の問題では片付けられないところまできています。
ともあれ、前述の様な薬害によるレアケースはさておき、落ち着きのない子どもや、すぐキレる子どもが、なぜこうも増加しているのでしょう?
人間の脳のメカニズムは複雑です。しかし、そんな複雑な脳でも、その土台が形成されるのは3年3ヶ月と極めて短い期間です。このわずかな期間=この期間に対して、私たちの環境はここ100年で激変しています。工業社会を経て先進国となるも様々な環境問題を抱え、医学の進歩はときにして人体に薬害や過保護をもたらすことに繋がり、便利社会は人間としての生活リズムを不規則にさせました。
大人にとって何でもない環境の変化への対応・適応であっても、500万年かけて進化してきた人類のメカニズム(特に、人間の誕生や脳の発育・形成メカニズム等)は、そうそう変わるものではなく、胎児や幼児への影響を看過するわけにはいきません。
3年3ヶ月という短い期間をうまく乗り切ることが、可愛い我が子の将来を左右する脳の土台作りとなると言えるでしょう。
幼児脳があぶない、その大きな要因となるのが、今回の「環境ホルモン」と、次回の「微細脳障害(MBD)」/「早幼児期脳障害」や「睡眠障害」の3つですが、どれもとても問題です。
ただ、今回の「環境ホルモン」や「微細脳障害(MBD)」/「早幼児期脳障害」による幼児脳へのダメージは、お母さんが知らず知らず可愛い我が子に与えてしまっているだけに、もし、そうなってしまったとしても責められるべきでは無いかもしれません。(この「まいと」対談」を読むような人が、自分から求めてそうする人はいないでしょう!?)
しかし、「睡眠障害」に対しては、ある意味、親にも責任があると言えるでしょう。なぜなら、親の生活リズムに子どもは影響を受けるからです。
次回は、幼児期に受けた脳の障害がどう将来に影響を与えるか? 睡眠障害が与える幼児脳への影響などを中心に話したいと思います。
(今回のテーマ、幼児「脳」があぶない! その問題となっている第1の要因「環境ホルモン」について、この解説のコーナーは以上です。次回は、残りの第2の要因「微細脳障害(MBD)」/「早幼児期脳障害」と第3の要因「睡眠障害」についてです。)
さて、前回同様に引き続き、るりる〜先生と吉木先生とで「幼児教育と“言語の獲得”〜正しい日本語〜」について対談を進めていただきたいと思います。